食物アレルギーの経口負荷療法は、症状が出るかもしれないという不安や恐怖と闘いながら、また経口負荷のための食品を自分で用意しなければならず、大変ですよね。
Emilyの長女も現在、卵黄と牛乳の経口負荷療法を日々、交互に行っています。卵黄は固ゆでのものをすぐに解体し0.1g単位で計量、牛乳は注射器を使って0.1ml単位で計量しています。
長女は2020年5月現在、2.0mlでは無症状ですが、2.4mlでは中等度の症状が出るためエピペンの使用を考慮するレベルです。これでも少し前よりずいぶん摂取量が増えたものです。
このように、0.1ml単位で症状が出る・出ない、症状の強弱が変わる人は、長女以外にもいらっしゃると思います。
ところで、私は看護師なので注射器(病院ではシリンジと呼びます)を正確に使用できている自負がありますが、今まで注射器を扱ったことがない方もはたして正確に計量することができているのだろうか?とふと疑問に思いました。
ネットには、医療に精通していない方向けの注射器の扱いについてまとめた記事は見当たりませんでした。牛乳等の液体で経口負荷療法を始める時に、医師や看護師から注射器の正しい扱い方について指導していただけましたか?
指導して頂いているのなら良いのですが。長女のように微量で症状が変わる方がもし、正確に計量できていなかったら?と少し心配になりましたので、正しい注射器の扱い方を写真付きで記事にまとめることにしました。
正しく計ることは、医師の指示を正確に守ることにつながります。もしよろしければ是非ご一読下さい。コツを覚えたらとても簡単な手技なので、私と一緒に注射器の扱い方を確認していきましょう。
「正しく」計る意味は「治療の成果を正確に評価する」ため
このお話は、「おおよその計量でOK」と医師から言われている人はあまり気にすることはないお話です。
ですが、医師から注射器で計量する指示が出ている方は、0.1ml単位で増減するような、微量の牛乳を摂取する指示が出ている方がほとんどではないでしょうか。
そのような方は、経口負荷療法の最大限の効果を引き出すために、正確に計量するのが望ましいと私は思います。その理由は、次の3点です。
1.一回の摂取量が少なければ少ないほど、影響が大きい
注射器で計量する場合に起こりがちなのは、目盛に合わせる時に空気をうまく抜けず正しい計量ができないという失敗だと思います。
牛乳を吸い上げた時に空気を抜かないまま目盛に合わせてしまうと、空気の分、実際に計りたい牛乳の量よりも少なくなってしまいます。
これは、例えば50ml毎日摂取する方が49mlになってしまっても総量の50分の1の誤差ですみますが、2.0mlを摂取する方が1.5mlになってしまったら、総量の4分の1もの誤差になってしまいます。
これは、治療の効果を判断する上では、あまり見過ごすことの出来ない誤差だと思います。
このように、摂取する量が少なければ少ないほど、正確に計る必要が出てきます。私の長女のように、安全圏からアナフィラキシーまでその差0.4ml、のような敏感な方は特に頑張って頂きたいところです。
2.医師と意思疎通し、同じ考えで治療に臨むことが大切
「毎日牛乳を2.0ml飲んでね」と指示を出した医師は、患者さんが毎日2.0ml飲んで来てくれるだろうと考えると思います。
そして、次回受診日に患者さんが「毎日2.0ml飲んできました」と報告したら、「そうかそうか、指示通り毎日2.0ml飲んできてくれたんだな、それで現在治療の成果がこのようになっているんだな」と判断していくでしょう。
ちょっとくどいような話ですが、医療というのは「事実から判断していく」ことがとても大事なので、本来であれば「患者さんが2.0mlを正しく計量できている」事実を確認する必要があります。
その方法は、実際に目の前で計量してもらうなり、自宅で計量している様子を動画に撮ってきてもらうなり、なにかしら方法はあると思いますが、実際にそこまでの確認をされた患者さんはどのくらいいらっしゃるでしょうか?
私はあまりいないのではないかと思います。
Twitterでアレルギー患者さん同士会話していても聞いたことがないし、治療が進まないのはうまく計量できていないせいという状況でもない限り、患者さんが「計ることが出来ている」と言ったらおそらくそれを信じて治療は進められるでしょう。
でも、もし患者さん自身がうまく計れていると思っていても、手技を知らないために不正確な計量だったら? 時に診断と事実にずれが生じるおそれもあるのではないでしょうか。
ですから、医師の言ったことを忠実に守ろうとするなら、患者さん自身が正確に計れるようになる必要があります。コツを覚えたらすぐに出来るようになりますので、記事を読み進めてみてください。
3.正しく計って症状(特にアナフィラキシー)を予防する
先ほども書きましたが、注射器で計量する際に起こりがちな失敗は、空気の抜き忘れです。それによって本来の指示量よりも少なく摂取した場合、その失敗によってアナフィラキシーを起こす可能性は低いでしょう。
でも、2.0ml摂取するという医師からの指示で、不正確な計量により実際に摂取しているのが1.5mlだったとして、安全と医師が判断した量が2.0mlだったらどうでしょうか。
2.0ml相当の加工品を摂取してみようか、なんてことになったら、本当の意味での安全量の1.5mlは越えてしまいますね。
このような事態を避けるためにも、指示量は正確に摂取できるように計量したいものです。
注射器(シリンジ)で正確に牛乳を計るための手順
注射器で液体を計るコツを知っていれば、誰でも簡単に正確に計量することができます。ひとつひとつ順を追って、写真で見ていきましょう。
ここでは、10ml用のシリンジで、5.0mlを計量するやり方を説明していきます。
1.牛乳を多めに吸い上げる
まず初めに、指示量の5.0mlよりも多く吸い上げます。筒先を牛乳に入れた状態で、内筒(押し子)を引きます。
2.注射器から空気を抜く
注射器から空気を抜くことは、正確な計量には欠かせません。
空気が上にのぼりやすい角度に注射器を傾ける
筒先から空気を出すために、筒先の根本に空気が集まるように注射器を傾けましょう。
外筒をデコピンして空気を筒先の根本に集める
外筒をぴん、ぴん、とデコピンすると空気は上の方に上ってきます。筒先の根本に集めておきます。
この時、筒先から牛乳が飛び散ることがあるので、筒先をティッシュやキッチンペーパーで軽く囲っておくと安心です。ティッシュを筒先に押し付けるとティッシュが牛乳を吸い上げてしまうので、周りを囲むだけにします。
角度を保ったまま内筒(押し子)を押して空気を抜く
筒先の根元に空気を集めたら、角度を保ったまま内筒をそっと押して空気を追い出します。筒先の中にも残らないように空気は全部出します。
この時、牛乳も少し出てしまうことがあるので、筒先の根元をティッシュで支えて吸い取ります。
もし空気の泡がうまく押し出せない場合は、一度内筒を引き、空気を入れて注射器を揺らすと泡がひとつにまとまって押し出しやすくなることがあるので、試してみて下さい。
3.内筒(押し子)を押して指示の量まで減らす
空気が抜けたら、あとはさかさまにしても大丈夫です。指示の5.0mlの目盛まで内筒を押し、不要な牛乳を出して完成です。
注射器(シリンジ)で計量・摂取するときの注意点
注射器で計量したり、それを摂取させる時には少し注意した方がよいことが5点あります。
1.筒先(先端の細い部分)に残った牛乳は飲まない
注射器の中の牛乳を全部押し出した後も筒先の中には牛乳が残っていますが、これは残したままでOKです。
注射器の目盛りは、筒先の根本、注射器の本体部である外筒の端からついていて、目盛りはゼロから始まります。
なので、その目盛外にある筒先の中の牛乳は、カウントされません。でも、吸い上げた液を押し出した後もその場所に残って外には出ないので、そのまま筒先に残しておいてOKです。
以前、私の長女が牛乳0.05ml摂取の指示がありそれを夫に任せていたところ、妙に症状が出る日が続いたことがありました。おかしいなと思って夫の手技を確認したら、筒先に残った牛乳まで飲ませていました。
その時使っていたのは1ml用シリンジで、筒先に残った牛乳を中に引き込んで計量してみたところ、約0.02mlでした。
ものすごく微量ですが、長女への指示は0.05mlで、それと合わせると0.07ml。およそ1.4倍量を摂取していたことになります。
こういったことを防ぐためにも、筒先に残った牛乳は飲ませないように注意しましょう。
2.外筒についた牛乳がくちびるやまわりに付かないように注意する
指示量に合わせる時に少し牛乳を捨てることになるので、その時に外筒に牛乳が付着しやすいです。
くちびるや顔に牛乳がつくと痒くなったり赤くなったりすることがあり、付着したせいなのか、飲んだせいなのか判断がしにくくなる場合があります。
こぼれた牛乳はよく拭き取ってから摂取すると良いですね。
3.勢いよく押すと口腔内から牛乳が飛び散るので注意する
内筒を押して牛乳を出す時は、静かに押して勢いよく出さないようにしましょう。意外と飛び散ります。口のそとに飛び散ってしまうと、せっかく正確に計量したのが無駄になってしまうので、注意したいですね。
それと、うちの長女がやりがちなのですが、舌で筒先を触りたくなるらしく先端をふさがれることがあります。舌で先端を触らないようにも注意した方が良いです。
その時、完全にふさがれるのならストップするだけなのでまだ良いのですが、中途半端にふさがれるとホースの先端をつぶした時のように牛乳の出る圧が上がって口の外まで飛び散ってしまいます。
計量が不正確になるわ、顔はかゆくなるわ、で良いことは一つもありませんのでどうぞお気をつけ下さい。
4.注射器のサイズによってひと目盛の量が違うので注意する
注射器にもサイズがあり、それぞれの大きさで計る液の適量が変わってきます。そのため、摂取量に合わせて注射器もサイズを変更することが望ましいです。
注射器のサイズが変わると、ひと目盛の量は変わります。目盛はとても細かいので、見間違いのないように注意しましょう。
5.ゴムが劣化した注射器は使用しない
本来であれば注射器は使い捨てにするもので、再使用するようには作られていません。ですから、洗浄して再使用していくうちに、内筒のゴムの部分が劣化して固くなってきます。
ゴムが固くなると内筒がスムーズに動かなくなるので、正確な計量と摂取ができないおそれがあります。
毎日使用していると、だいたい10日ぐらいは再使用に耐えます。それを過ぎて内筒の動きが悪くなってきたと感じたら、廃棄して新しい注射器に交換しましょう。
注射器(シリンジ)の洗い方
本来であれば注射器は再使用不可の使い捨て医療器具ですが、経口負荷療法に使用する場合、きちんと洗浄していれば劣化するまでは使うことができます。
水洗い後、中性洗剤に30分程度つけておく
はじめに流水で水洗いして、中性洗剤をとかした水に完全に浸るように30分程度つけておきます。その後、流水で洗い流します。
これは、私が独自に行っている方法ですが、におい残りやかびなどはなく、治療にも影響していないようなのでご紹介します。
方法と時間は、喘息治療に使うスペーサーの添付文書に書かれた洗浄方法を参考にしました。
完全に乾燥させてから使う
洗浄した後は、完全に乾燥させてから内筒を戻し保管します。濡れたままでは雑菌が繁殖してしまうため、必ず完全に乾燥させてから内筒を戻すようにして下さい。
注射器(シリンジ)の購入について
注射器は、経口負荷療法に使用する場合は病院で購入している方が多いでしょうか。私は病院の中央材料室から自費で必要本数を購入しています。
もし、
- 病院からもらう量では足りない
- 洗うのは面倒だから毎回使い捨てたい
- 他の用途でも使用したい
という方がいらっしゃっいましたら、Amazonなどでも購入することができますのでご紹介いたします。
0.1~1.0mlくらいの計量に 1.0mlシリンジ
0.5~2.0mlくらいの計量に 2.5mlシリンジ
1.0ml~5.0mlくらいの計量に 5mlシリンジ
3.0ml~10mlくらいにちょうど良いサイズ 10ml用
まとめ・正しい方法で行い自信をもって治療に臨みましょう!
食物アレルギーの経口負荷療法はまだまだ発展途上の治療法であり、医師の考え方と患者さんの状態によって方法はさまざまだと思います。
しかし、正確な診断と治療を期待するためにも、医師の指示を忠実に守れるよう患者としても努力したいところです。
注射器は、空気の抜き方のコツさえ覚えれば、簡単に扱うことができます。
この記事を読まれた方が、注射器で正しく計量できるようになったり、確認することで自信をもって治療に臨むことができるようになったら、看護師として嬉しい限りです。
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